遅すぎた告白(2)

やっとゆっくり話せるね、と隣に座ってきた彼。 久しぶりに会う彼を改めてみてみると、以前より すこしだけ逞しい体つきになっていたけれど、 相変わらず几帳面に整えられた髭と、 笑った時にちらっとのぞく右の八重歯に 好きだったあの頃の感情が一気に蘇って きてしまうような気がして、 思わず目を逸らしてしまった。 そんな私の反応に気付いたのか、 さっきまで声も高らかに冗談ばかり言っていた彼は、 急に声のトーンを落として、 実は俺、去年離婚したんだよ。 と呟くように言いました。 あまりにも急な打ち明け話に、私が驚く間も無く またさらには、異動した先の職場で人間関係が うまくいかずに精神的に追い詰められてしまい、 仕事も1年間休職することになり、その最中に 彼の看病に近い世話と、小さなお子さんたちの 育児に疲れ切った奥様から離婚を切り出された との経緯まで、長いまつげを伏せながら 寂しそうな横顔で話始めた。 人伝てに聞いていた彼の暮らしぶりは、私が職場を やめた直後に彼は結婚し、3人のお子さんにも 恵まれ、昇進して県外へ異動したとの事だったので、 てっきり順風満帆の人生を過ごしているものと ばかり思っていた。 今はようやく気持ち的にも少し落ち着いてきて、 古巣の職場で復帰のチャンスをもらい、 どうにか頑張っているよ、と ひと通り彼の近況を聞いたあと、私は自分でも 何とも言い表せない複雑な気持ちになってしまい、 思わず泣き出してしまった。 泣きたいのは彼の方なのに… 逆に私が彼に慰めてもらう形になってしまった。 私がようやく事情を飲み込みはじめて、 泣き止もうと息を整えていると、 彼は私の目をじっとみつめて さらに思いがけない告白をしてきました。 お前を選んでいたらこうならなかったはずなのに。 、、、え? いまなんて言った? お互い好きだったのは分かっていたのに 当時の関係が壊れるのがこわくて気持ちを伝える事が できなかった。こうなった今、とても後悔してる。 、、、うそだ。 私が前の職場をやめる少し前に、彼に彼女ができたと 同僚から聞かされて、彼に気持ちを伝えられずに 傷心のまま退職した。 それから7年もの間、彼への思いを引きずっていた わけではないが、何人かとお付き合いをしてきた けれど結婚に至るまでのご縁はなく、 私は今も独身でいる。 彼のこの突然の告白は、酔った勢いなのか、離婚の 寂しさからそう言ってるのか。 それとも現実を忘れた私の、浅はかな淡い希望が そうさせているのか、薄暗い照明の中 こちらを迷いもなく見つめてくる彼の表情を 読み取るのは難しかった。